桂枝湯とその派生処方 その2
桂枝加朮附湯と桂枝加竜骨牡蛎湯
それぞれの対極に位置する方剤は?
寒熱と陰陽について
【基本処方:桂枝湯(詳細は桂枝湯とその派生処方 その1参照)】
No.45(桂枝湯):桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草
適応:外感風寒表虚証
主薬は桂枝で、経絡を温めて風寒を発散させる。芍薬は風邪を治す要薬で、鎮痛・鎮痒作用がある。これに「生姜+大棗」が副作用防止・作用緩和の目的で配合される。最後に諸薬の調和の目的に甘草を入れると桂枝湯になる。
【桂枝湯の派生処方】
No.18(桂枝加朮附湯):桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草、蒼朮、附子
適応:寒湿脾症
桂枝湯に蒼朮と附子を加えると桂枝加朮附湯となる。
白朮ではなく蒼朮なのは利水がメインだから。つまり湿が高い状態だから蒼朮。そして附子が入っているというこは寒証向きの方剤であることを意味する。
寒湿があるとどうなるのか。簡単に言えば、水と冷えは痛みやしびれにつながる。
冷えと脾湿(消化器系の水分の代謝異常)は四肢の痛みやしびれを引きおこす。たとえば、朝のこわばりや温めると楽になるけど、冷えるとひどくなるような痛みやしびれなどがそうである。
こういう症状に桂枝加朮附湯は奏効する。
そしてもう一つ、大事なポイントが桂枝の存在だ。桂枝は他の生薬を引き連れて上半身へ向かう。ゆえに、桂枝加朮附湯は上肢や上半身の症状によく用いられる。
No.26(桂枝加竜骨牡蛎湯):桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草、竜骨、牡蛎
適応:陰陽両虚、気血不足、虚陽浮越
桂枝湯に竜骨・牡蛎を加えると桂枝加竜骨牡蛎湯となる。
*配合法則 竜骨+牡蛎 : 裏虚証で、神経症状のある場合に、鎮静の目的で用いられる。
この方剤を考えるときに、柴胡加竜骨牡蛎湯と比較すると理解しやすい。両剤の薬効はよく似ており、現在は自律神経失調症などに用いられることが多い。異なるのはベースとなる方剤だ。
柴胡加竜骨牡蛎湯は小柴胡湯をベースにしているのに対して、桂枝加竜骨牡蛎湯は桂枝湯をベースにしている。つまり用いる症状は似ているが、証が違うので用いるベースが異なるというわけだ。
虚証(疲れやすい)、寝汗、手足の冷えなどの陰証で神経不安などがある場合に桂枝加竜骨牡蛎湯が適している。
【投薬時の注意点】
No.18(桂枝加朮附湯):寒証に用いる方剤。関節の発赤や腫脹、熱感には用いない(こういうときは越婢加朮湯を用いる)。
No.26(桂枝加竜骨牡蛎湯):陰証(虚、裏、寒の要素の強いもの)に用いる方剤。血圧が高い、カッカする、手足があついなどの陽証(実、表、熱の要素の強いもの)には用いない(こういうときは柴胡加竜骨牡蛎湯を用いる)。
上記の方剤はそれぞれ対極の関係にある。
No.18(桂枝加朮附湯)<寒>⇔No.28(越婢加朮湯)<熱>
No.26(桂枝加竜骨牡蛎湯)<陰>⇔No.12(柴胡加竜骨牡蛎湯)<陽>
こういう関係を示すものは、その証を間違えると副作用が出やすい。症状だけでなく証の概念を忘れないようにしたい。