二陳湯とその派生処方 その3
二陳湯といえば陳皮と半夏
陳皮と半夏のどちらかだけの派生処方
寒痰と熱痰について
寒痰のイメージは白・うすい・量が多い。小青竜湯や苓甘姜味辛夏仁湯を。
熱痰のイメージは黄・粘調・炎症。清肺湯や竹笳温胆湯を。
【基本処方:二陳湯(詳細は二陳湯とその派生処方 その1を参照)】
二陳湯はあまり使われていないイメージがあるが有名な基本処方だ。主薬は半夏と陳皮。この2つは古いものほどよく効く。そして「陳」には「古いもの」という意味がある。2つの古いものだから、二陳湯というわけだ。
No.81(二陳湯):半夏、陳皮、茯苓、甘草、生姜
適応:湿痰
主薬の半夏、陳皮には化痰(けたん=去痰)作用がある。そして、茯苓が脾の水をさばき、痰の生成を防ぐ。甘草は諸薬を調和し、半夏の毒性を除くために生姜(「半夏+生姜」の配合法則)がくわえらている。
咳、白い多量の痰、胸のつかえ、食欲不振、悪心・嘔吐などの湿痰の症状に適する。
【二陳湯の派生処方】
No.119(苓甘姜味辛夏仁湯):半夏、茯苓、甘草、乾姜、細辛、五味子、杏仁
適応:寒痰の喘咳
二陳湯から陳皮を除き、生姜を乾姜に変え、細辛、五味子、杏仁を加えると「苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)」となる。各生薬名を1つずつとった名前だが、…とにかく長い。発音しにくい。言えれば構成生薬をぜんぶ言えたも同然だが…。
じつはこの苓甘姜味辛夏仁湯は「小青竜湯(No.19)のウラ処方」と呼ばれており、よく似ている。
No.19 :半夏、乾姜、甘草、五味子、細辛 +麻黄、桂枝、芍薬 <表証・実証向き>
(ここの5つの生薬は同じ)
No.119:半夏、乾姜、甘草、五味子、細辛 +杏仁、茯苓 <裏証・虚証向き>
アレルギー性鼻炎の8割は小青竜湯で大丈夫だが、残りの2割は苓甘姜味辛夏仁湯の証だと言われている。
風寒があって、肺の動きがにぶり、寒痰の症状(色は薄く、量の多い鼻水など)を示す場合には小青竜湯が有効だ。これが8割。そして残りの2割は、胃腸が弱い(脾胃陽虚)ために、肺の動きがにぶり、寒痰の症状を呈している。
つまり、寒痰の原因が風寒ではない。この場合が苓甘姜味辛夏仁湯の証となる。
症状からだけではわかりにくいが、鼻汁の他にくしゃみを伴う場合は表証の場合が多いので、小青竜湯の適応としてよい。また、小青竜湯を服用すると動悸や不眠、胃腸障害を生じるようなときは苓甘姜味辛夏仁湯を考慮すべきだろう。
No.90(清肺湯):陳皮、茯苓、甘草、生姜、大棗、黄芩、山梔子、桑白皮、貝母、桔梗、杏仁、麦門冬、天門冬、五味子、当帰、竹笳
適応:肺熱咳痰
二陳湯から半夏を除き、大棗以下を加えると「清肺湯」になる。構成生薬が多いので、各生薬の働きを以下に記す。
黄芩、山梔子、桑白皮:肺熱を鎮める(桑白皮は肺熱による咳を鎮める主薬)
貝母、桔梗、杏仁 :止咳の専門薬
桔梗+甘草(桔梗湯) :のどの痛みに
陳皮、茯苓、生姜 :脾胃を整え、化痰する
天門冬、麦門冬、五味子:咳、たんに
当帰 :補血作用だけでなく、肺に潤いを与える
生姜+大棗 :副作用防止
熱痰(粘調で切れにくい、やや黄色の痰や鼻水)やのどが痛い、咳がひどいなどの肺熱の症状を伴うカゼやインフルエンザ、気管支炎などに清肺湯が適している。
【投薬時の注意点】
No.119(苓甘姜味辛夏仁湯):肺陰虚(空咳や咽喉部の乾燥感)や肺熱証(黄色い痰、喀血)などには適さない。
No.90(清肺湯):肺寒証(顔面蒼白、痰が薄く白い)には適さない。